桐朋学園大学音楽学部に弦楽器専攻として、2015年に入学しました。音大受験に向けて、どのくらいの期間でどのような準備を行ってきたのかお話します。コロナウイルスの影響で、大学の夏期講習に参加できなくなってしまった方、受験に対し不安を感じている方、音大受験を考えている方などへ、この記事が少しでもお役に立つことができれば幸いです。
受験準備をやり始めた時期
音大を受験するためには自分が専攻する楽器だけでなく、ソルフェージュと副科ピアノ、英語と国語が試験科目としてあります。(※専攻楽器によって内容が異なることがあります。)
ソルフェージュとは、楽譜を読む力や音を聴く力、表現力を向上させるために鍛えるための音楽における基礎訓練の通称です。受験では、「楽典」「新曲」「聴音」というものがあります。これを英語で例えて説明すると、英文法に当たるのが「楽典」(楽譜上の和声や音程、音楽用語などが問われるもの)、スピーキングが「新曲」(約20秒程度時間が与えられ、即座に約8〜10小節程度の歌を歌う)、リスニングが「聴音」(試験官の方がピアノで演奏する約8〜10小節の曲を聴き取り、楽譜に書き起こす)です。
私が音大受験に向けて準備し始めたのは中学3年生からです。その時の私の状況は、ピアノを習い始めて4年目、専攻楽器をやり始めてから2年目。受験を決心したものの、ソルフェージュのレッスンは通っていません。当時の先生からは「楽譜が普通に読めることと聴き取って書く能力は別物であることから、今から準備するべきだ」とアドバイスを受け、ソルフェージュの先生を紹介していただきました。そこから毎週1回ソルフェージュのレッスンとピアノ、専攻楽器のレッスンに追われる日々が始まりました。
学生生活
中高生の時に工夫したことは、勉強との両立です。普通科の中高一貫校に通っていたため、学校では音楽に特化した授業はなく、練習時間が限られます。さらに宿題や試験も多くあったため、すぐに帰宅後から練習をスタートし、夜12時から朝3時まで勉強をする、という生活を続けていました。思い返せばご飯の時間や寝る時間も惜しんで両立をしようと無理をしていましたが、ある時疲労で難聴になってしまったのです。このことから生活を改め、学校の勉強や宿題は学校で済ませ、家では楽器の練習や音楽の勉強をするというスタイルにしました。その結果バランスが良くなり、無理することなく学校の成績は音楽以外全て平均点をキープすることができました。
さらに音楽において意識したことは、自分に合った専攻楽器の先生に巡り会うことです。私は楽器を始めたのが遅く、やり方が分からなかったのです。「ならば自分で見つけるしかない!」と様々な演奏会に足を運び、運命を感じた奏者に直談判でお願いしました。
試験科目について
■専攻実技(弦楽器の場合)
受験の曲に取りかかったのは高校3年生の時です。2月の受験に向けて1年間課題曲をさらい続けました。当時の課題曲は、バッハの無伴奏チェロ組曲とコンチェルト1曲でした。もちろん暗譜です。
試験までに場に慣れるため、コンクールを出場し様々なホールで演奏したり、志望校の夏期講習に参加し、どんな場所で演奏するか下調べすることをお勧めします。
桐朋学園大学の受験では、試験官の先生方の前で演奏する前に、受験日前日に伴奏合わせが与えられています。初めましての伴奏の先生とアンサンブルをすることになります。そのため私は、伴奏のピアニストが用意されているコンクールに参加することで、初めての方との演奏でも戸惑わないように対策をしました。
■副科ピアノ
専攻楽器の他にピアノを演奏する試験もあります。こちらも暗譜しなければなりません。
曲は、自由曲でベートーヴェンやモーツァルトなどのソナタ以上のものと、演奏する曲と同じ調のスケール、カデンツァを弾くというものでした。ピアノを弾くことが非常に苦手だった私は、1年半くらい前から同じ曲を弾き続けてやっとでした。
■ソルフェージュ
【楽典】
楽典は、楽典〜理論と実習〜という本を中心にして勉強しました。基本的な調性の仕組みや音程の問題、音楽用語はこの本で学習できます。
しかし用語や仕組みをただ丸暗記すればできる、というものでもありません。その曲に適した音楽用語を当てはめる設問や、空欄箇所に音符を記譜するなど、楽譜を見てその場で音を頭の中で鳴らし分析できなければ難しい問題です。基礎的な知識を身につけ、過去問を解くことが重要です。ほかにも実在する曲の一部を抜粋し、その箇所を分析し実際に自分で音を鳴らして答え合わせをする、など実践的な対策を行うと良いと思います。
【新曲】
正しい音程で歌えることも重要ですが、新曲で大切なことは、その曲の音楽性を短時間で捉えることだと思います。いくら音程だけ合っていても、ダイナミクスが拾いきれなかったりリズムが狂ってしまうと、あまり良い印象を受けません。最初に楽譜を渡された時、その曲のキャラクターを見抜き、どのくらいのテンポで歌うべきか、曲の頂点はどこにあるのか、さらには難しそうな箇所などに目を通します。新曲を得意とするためには、数をこなすしか方法がありません。新曲問題集を買い、毎日数曲歌う練習をしましょう。桐朋学園内にあるYAMAHAには、桐朋学園が編集している視唱問題集が販売されています。こういった問題集や過去問、その他の問題集を利用して慣れていきましょう。
【聴音】
新曲と同様、ある程度数をこなす必要があります。聴音は2種類あり、単音のメロディーと和声を楽譜に書き起こします。
新曲や楽典と違うところは、ピアノをどなたかに演奏していただく必要があるので、1人で学習できないところです。また聴音は特に復習が大切です。学習方法としては、レッスンの時に弾いてもらって聴き取れなかった曲や和声を家に帰って自分で弾き、聴き直すというやり方です。
試験では、1曲が8小節(4小節2段とした場合)、まず通しで1回、もう1度全部通し、1〜4小節目を3回、5〜8小節目を3回、最後に1回通して終わりです。
曲を弾き始める前に、小節数や調性を楽譜に書き入れる時間があります。ここで間違えると、慌ててしまい試験に集中できず力を発揮できません。待ってもらうこともできるので、落ち着いて準備をしましょう。
■一般学科
【英語】
英語の試験は、和訳問題(10問)、和文英訳の問題(5問)、5〜6行程度の自由英作文(芸術や音楽に関わるテーマなど指定されたもの)でした。基本的な英文法を理解し、文章を作る程度の単語を知っていることは最低限必要です。私は「Duo」や「Dual Scope」といった教材を用いて、移動時間などのスキマ時間に勉強していました。
【国語】
国語の問題は、A4サイズ約3枚分の現代文の読解問題があり、その課題を用いて、漢字の読み書き、指示語を探す問題、文章に対する理解力を試す問題、熟語やことわざの意味を答える設問がありました。様々なジャンルから出題されます。(情報化社会、日本文学など)大学入学共通テストと異なり、選択問題はほとんどありません。普通科の学校の国語の授業を真面目に受けていれば、そこまで心配することはないと思います。英語と同じく、語彙力(漢字、ことわざ、熟語など)の勉強をスキマ時間にやると良いと思います。私は「速戦ゼミ 入試頻出 新国語問題総演習」を使っていました。
受験で大変だったこと、受験を通して学んだこと
桐朋学園大学の試験は4〜5日に渡って行われますが、なんとハプニングが起きました。最後の2日間で電車が動かなくなるほどの大雪が降り、急遽ホテルを取らなければならなくなったのです。地方からの受験生ですでにホテルは満室。やっとの思いで1部屋確保することができました。雪の影響で試験時間も大幅に遅れて開始されたので、慣れていない試験と寒さと待ち時間によって心身ともに疲弊したことも良き思い出。
そして、受験を通じて学んだことが、”受験に向けて”だけではなく、これからの音楽人生の可能性を広げる知識に直結しているということです。受験曲ということを意識しすぎず、目の前の音楽の良さや表現したいという気持ちを大事に、残りの受験生活を乗り切ってください!
応援しています!