【Meet the Orchestra】宮崎で生まれた楽団「G音楽たい」10周年を迎えて 〜想いを託されたそれぞれの委嘱作品〜

星出 尚志(ほしで たかし)さん
今作品の楽譜

ーー今回の演奏会で委嘱作品を作ることになった経緯を教えてください。

星出さん:今回はG音楽たいの結成10周年を記念して、団体の活動拠点である宮崎県五ヶ瀬町に因んだ作品を作って欲しいとのご依頼でした。ただ結成10周年は昨年(2020年)だったらしいんですよね。なので、その年のうちに曲は書き上げていたのですが、年が明けてすぐの2021年1月の下旬に宮崎で初演される予定だった演奏会が、コロナの影響で同年9月に延期という形になりました。作品を作る上で、ゲストの東京佼成ウインドオーケストラ(以下佼成)さんを含めた団体の人数や演奏会の具体的なコンセプトなど、メールでやりとりしながら書き上げました。  

 実は私、宮崎県とはとてもご縁があって、これまでに4曲も宮崎をモチーフにした曲を書いてきました。しかし五ヶ瀬町を題材にしたのは今回が初めてで、ネットで調べても情報があまり出てこなかったんです。なので「どんな曲が良いですか?」とお聞きしたところ、「五ヶ瀬町は天照大神(あまてらすおおみかみ)の神話の話が有名で、高千穂神楽という夜通し行う昔からの神事があるので、それらを題材にしてまとめていただけますか。」と。今作品はそういった経緯で岩戸隠れの神話がモチーフになっていて、曲中に高千穂神楽では定番の笛のフレーズがライトモチーフとして要所要所に流れています。

 

ーー大体どのくらいの期間で曲が出来上がるのでしょう?

星出さん:委嘱内容によっても異なりますが、今作はストーリー自立てなのでどういった構成にしたらいいかなど、他の仕事をしながら1、2週間考えて、実際に筆─今はパソコンで入力するのでマウスだけど─を動かしたのは3週間くらいだったと思います。

ーー委嘱作品を作る上で特に意識されていることはありますか?

星出さん:クライアントから同じ提案をいただいても作曲家によって出来上がってくる曲は十人十色。時にはクライアントの持っていたイメージと違うものが上がってくる、ということはなくはありません。なるべくそういったことが起こらないように緻密にやりとりを行い、それに応じて作曲するよう心がけています。また演奏者にこちらの意図が伝わるようにオーソドックスに、堅実な譜面を書いています。私のような職業作曲家は、より多くのアマチュアに演奏してもらえるようにアレンジをしたり作品を書いたりするので、無謀なことは書かないことが多いです。それに曲に対する多少の解釈の揺らぎや幅があっても、私はそれを楽しむタイプなので。

ーーオーソドックスに書く…なかなか難しそうですね。

星出さん:実際に書いてみて音を出してみたらどうなるのか、という経験をたくさんしているのであまり難しくはないです。とにかく場数だ!と私自身思っていますし、若手の作曲家にもそう言っています。トライアル&エラーをたくさん重ねていくうちに、思い通りの音やバランスで書けるようになっていきました。私の場合はプロのレコーディングにたくさん関わらせていただいたことが大きかったと思います。プロはシビアなので、駆け出しの頃は演奏家やレコーディングエンジニアからダメ出しをたくさんされたことで、鍛えられたんじゃないかな。


高橋 宏樹(たかはし ひろき)さん

http://www.hiroki-san.com

ーー今回の取材に際して高橋さんのホームページを拝見したのですが、ロゴやデザインが非常に素敵ですね!

高橋さん:名刺などのデザインは高校の1つ下の後輩に頼んでいますが、ホームページの管理は自分でおこなっています。コロナ禍で時間をたくさん作れた時期があったので、そのタイミングで楽譜の販売も始めました。ネタを作って披露するのが好きなんです。なので昔からこういった活動はやっています。高校生の時にインターネットが普及し始めたので、思いついたネタを掲示板で紹介したりしていました。Twitterでバズったこともあります。最近はTikTokに力をいれていまして、フォロワーも多いですね。TikTokでは動物の鳴き声に伴奏をつけて動物が歌っているようにする、というのを作っています。海外の方に見てもらうこともあって、そういうことをたくさんしています。

高橋さんのTikTokチャンネルはこちら!https://vt.tiktok.com/ZSJo4ALsU/

ーー他にも普段からユニークな作品を作られることもあるんですか?

高橋さん:結構やります。例えば、団体から委嘱を受けた時は作品の中にこっそりその団体名を忍び込ませたり、作品の題名をダジャレみたいにしたり。なので私は基本的に名前に思い入れやこだわりを持つタイプではありません。今作品も「テーマが空だから飛行機雲にしよう」という流れで決めました。

ーーいつ頃から作曲に興味を持たれましたか?また今後やってみたいことは?

高橋さん:小学生の頃、ジブリ映画のラピュタを観て「なんて綺麗な音楽なんだろう」と思いました。いくつかジブリの作品を観ていくうちに、曲調が似ていることに気付き、そこから興味を持ち始めました。久石さんが大好きですね。今映像作品の音楽のお仕事はやっていないので、いつかやりたいなと思います。自分で映像も作るのもありかなと。最近は動画編集も始めまして、とても時間がかかるものだと知りました。いずれみんなが親しめるような歌の作品も作ってみたいです。

ーー今回の演奏会で委嘱作品について教えてください。

高橋さん:G音楽たいの代表である林さんと、私の共通の知り合いからご連絡をいただいたことをキッカケに、今回お引き受けしました。その時点ではどういったコンセプトで何を作るのか分からなかったのですが、作曲する段階で具体的なお話をいただいて、「演奏会のテーマが『コロナに打ち勝つ!芸術を絶やさない』、曲のイメージはスカイハイやロマン飛行のような感じで、テンポ120のメジャー(長調)でお願いします」と細かく決まっていました。そのお話を伺って自分の中で「T-SQUAREのような爽やかな曲かな」と思いつき、そこからインスピレーションを受けました。

ーーもし、作曲途中で行き詰まった際、リフレッシュ方法などありますか?

高橋さんアウトプットができない時はインプット。他の方の音楽を聴いたり、絵画や映画を観たりして、そこからヒントを得ています。書き出しは時間かかりますが、書き出すと色々と浮かんでくるようになります。

ーー委嘱作品を作る際はもちろん依頼内容に沿った形かと思うのですが、ほかに心掛けていることってありますか?

高橋さん:作曲する上で自分の中でのルールにしていることは、”吹きやすさ”です。私は中高生の吹奏楽やアンサブルのために作ることが多いので、息がしやすく吹きやすいもの、また各パートが吹いていて楽しめる曲、少しでもやりがいのあるフレーズやメロディを入れるように心がけています。

ーーオーケストラ曲や弦楽合奏、吹奏楽を作曲される時の違いが知りたいです。

高橋さん:オーケストラ譜ですと単純に物理的な量が多くなるというのがあります。しかし、パート数が減ると各パートの比重が大きくなるので、その中でもなるべく難しくなりすぎないようバランスを取る大変さはあります。同じ管楽器でもオーケストラと吹奏楽では役割が違うので、そこは切り替えないとヴァイオリン入りの吹奏楽のようにもなりかねないので、そういった点を注意しています。

 私は吹奏楽部でトロンボーンを吹いていたので、金管楽器についてはある程度分かります。木管楽器にも触ったことはありますが、自分が書いた楽譜が楽に吹けるものなのかまでは分からないので、リコーダーで吹いて試しています。あとはよく頻出するフレーズを参考にしたり、弦楽器は知り合いに実際に弾いてもらって確認しています。

ーー作曲家として、1番幸福感を感じる場面はどの瞬間ですか?

高橋さん:やはり1番最初に音が鳴る時ですね。それまでずっと1人で作っているので辛くてやめたくなる時もありますが、やっていて良かったと思う瞬間です。また次頑張ろう、というモチベーションに繋がりますね。


福田 洋介(ふくだ ようすけ)さん


ーー今回の演奏会で委嘱作品を作ることになった経緯を教えてください。

福田さん:G音楽たいのメンバーから「いつか福田さんに曲を依頼するから」とほのめかされていたんです、3年くらい前に。その時にはまだ内容をハッキリ聞いてはいなかったのですが、「是非お受けしますよ」と。それからずーっと待っていたら本当にこのお話をくださったんです。というのも、大阪に音楽仲間がたくさんいまして、その仲間と飲んでいた時に浮上したお話なんです。その方は楽器をご趣味でされていますし、細く長く付き合いも10年ほどありますので、いつかそういった機会があったら、と度々お話をしていました。

ーー今作品では”コロナに打ち勝つ”というコンセプトがあると伺いました。

福田さん:実は作品そのものに関してはコンセプトと違ったところがあります。昨今の情勢とは関係なく、“自然災害を多くうけた方々への祈りのような音楽を”というのがひとつのキーワード。コロナ禍の中にいる我々は昨今さまざまな災いにさらされすぎているじゃないですか。それをどう捉えるか、というのが大きなテーマになった感じがしています。

ーー作品を作る上で大切にしていることや、心境の変化はありますか?

福田さん:今まで自分が書いてきた曲は全般的に、人間そのものを主人公にした曲ってあまり無いんですよ。人間の営みに関しては語っているが、人間の感情そのものをなぞる曲を書いていない。例えば、愛憎劇のようなオペラや、歌曲のように「あなたのことをこう思っている」というダイレクトな人間の機微を扱う曲って世の中にはたくさんあるけれど、そういう曲を書いていないんですよね。

なので、今回作るにあたっても、「こんな世の中を作ったのは誰か」という話ではなくて、自然界にある森羅万象全てが生きているものであって、それに対して人間がその中でどう生きていくのかがずっとテーマになっているかもしれないなと思います。

ーーストーリーが込められているというよりは…。言葉にするのが難しいですね。

福田さん:難しいんですよ。言葉になかなかできなくて、まさにそこなんです。例えば、今回タイトルにつけた『碧の歌 (みどりのうた)』。新緑の季節って普通にみればとても綺麗じゃないですか。でも、その木々や芽吹いた自然が今度は嵐を巻き起こす。水を作って、雲を作って、そのあとは人間にとっての天災を引き起こすのだけれど、木々から芽吹いた葉っぱたちにとってはそんなの知ったこっちゃなくて、降ってきた雨、風そのものが自然たちの生きていくためのアイテムとなっている。それに対して、人間の我々は雨風にとても苛まれ、暮らしが脅かされる…だけど、それって、正直「人間の勝手」じゃないですか。つまり、自分たちの暮らしは大変な思いをするんだけど、自然界の中にいるからこそそれだけの条件が必要になってくる。なお、2013年に『海の歌』を書いています。海そのものは自分たち人間にとって必要だが、我々の命を落とすかもしれない脅威の存在でもあると。テーマとしては共通しているように感じます。

ーー美しさと危険が紙一重である、と。

福田さん:美しいのは確かにそうなんだけれども、そこに対して我々がなにを求めようとしているのかというのは皆違ってきていて。恨むべき存在にもなるけど、やはりありがたい存在。今回のプログラムノートの最後に『さて、私たちはどう生きるのか』と書いています。ここに繋がってくるのが大きいかなと。

ーーどう生きるのかに繋がるということですが、生きることに対してのメッセージはありますか?

福田さん:暮らしている中で色々と悩ましいことがあるからこそ、積み上がってきた話なのかな。自分自身、とても難しい題材になったなと思っています(笑)

自然というものを真っ正面から切り込んでみようと思った時に、ひとつヒントにしているのはジブリ作品の“もののけ姫”だったんです。あの作品の大きなテーマは『生きろ』。あの中で語られているものは「人間たちが今日をどう切り抜けるのか」。普通と言われていたものが、「その普通ってなんだったんだろう」って問い直しているところがありますよね。その普通として考えていた人間の業は、いつの世もすごく傲慢だなと感じています。

当たり前は当たり前じゃない。

ーーその言葉の意味は人々が痛感した感情のひとつだと思います。

福田さん:人間の知恵が積み重なっていって今までは恩恵を受けていることがあったり、工夫して出来ていることがあったけど、それだけじゃないんだ!って、気分的にゲームオーバーしている。

実はすごい機会を頂戴したなと思っています。

知ってる知識が直近の内容ばかりで、昨年の今頃には「新しい生活様式」と言われていたけれど、誰も望んではいなかった。実際に暮らしてみて、人間の悪あがき=創意工夫であり、確かに新しい価値観をみんな見出せた気はします。けれども、悲しいことに人間って欲張りなので、「やっぱりあれって必要だよね」って感じちゃうものです。まぁ、それも素直で良いなと思うんですよね。さてそれが本当に必要だったことか、整理されて見えてきているというのも面白い。

これらの考えが今作品に投影されています。
10分程度の中に2つの場面があり、曲頭に出てくる1番最初のテーマは1本の笛で示されます。この笛が最初はとてもガサガサした音のなかで聴こえてくるけど、曲の最後では皆の歌として聞こえてくる。「こうありたい」というシンプルな人のマインドを、ひとりひとり原種として持っている。色々な考え方が確かにあるんだけれども、純粋に「自分が生きていきたい」と感じるかなと。自然の中で我々が生きていくことそのものをうたう作品として創作しました。

ーー今回委嘱作品を作る上で、ご自身のオリジナリティなどをどう考えられましたか?

福田さん:企画そのものがユニークだと思いました。いわゆる愛好家の方々がプロの方々の胸を借りてひとつのステージを作りあげていくことって、意外にもそうたくさんある話ではないんですよ。本当はもっとあっても良いような思いますが。企画することはいくらでもできるとしても、アマチュア奏者とプロ奏者のラインや垣根を取り払う事は、作品を作る中でも大切にしたところかもしれません。

ーー垣根を取り払うとは。

福田さん:いわゆる、容赦をしないということですね(笑)

色々な条件があるにしても、作品の向き合いに何かを手加減してしまったら、演奏してくださる方々に失礼かなと思うんですよね。愛好家とプロ、どちらかに寄せることはしていません。この曲を今回お集りの方々に演奏していただくことだけに専念しました。ただ、リハーサルの時間がとても少ないと前情報として聞いてはいたんですが、知らないフリして(笑)

実際、演奏する方々の中に緊張感がグッと高まって、最終的には会場の中で聴こえてくる音楽そのものの緊張感も高まるのだろうなと大きく期待しています。